屋上ができるまで 飲食店用の物件を探す編

お店をつくるために動き出したとき、やらなければいけないことは無数にあったけれど、その中でも大きな問題になったのが「物件探し」だ。

この記事では、前回の「きっかけ編」につづき、「屋上」という名前のお店を始めたときの経験から得た、飲食用物件を探す時に注意したポイントやちょっとした気づきをまとめてみようと思う。
「経験もお金も十分あってこれから飲食営業でバンバン稼いでいくぞ!」という人にはもっと別のやり方があると思うけど、「使える手札は少ないけれど、ひとまず小さい規模から飲食営業のできるお店を始めてみたい」という人の参考になる記事になったら嬉しい。

屋上のこと

「屋上」という名前からよく誤解されがちなんだけど、「屋上」は一階にある。
飲み物を中心に日替わりで1、2種類のご飯を提供する飲食営業のほか、展示やイベント、ワークショップなどを不定期で開催している。また、映像制作チーム「屋上」の拠点としてmtgを行ったり、機材の保管場所としても利用している。

設備は以下の通り

キッチン系
2口ガスコンロ
冷蔵庫
二層シンク
食器棚

それ以外
プロジェクター
スピーカー
各種工具
ライトレール
エアコン
机・椅子・棚

まず考えること

まずはじめに、どういうお店にしたいのか、そのためにはどんな環境(設備)が必要なのかということを考えなければいけない。
無限にお金があれば、全ての条件を完璧にクリアした物件を契約することができるけど、普通そうはいかないもの。
賃料や立地、広さなどの諸条件について、「絶対に譲れないところ」「できればこうしたいというところ」「どちらでもいいところ」と条件に優先順位をつけていく必要がある。

私たちが物件探しをするにあたって考えたお店の目的と使い道はこんな感じだった
(現在の状況とは違うところもある)

●場所の目的
・人が集うリアルスペースがあってほしい(こちらの記事に詳しい内容がある)

●場所の使い道
・飲食店として
・オフィスとして
・ライブをする場所として
・展示をする場所として
・レンタルスペース、コワーキングスペースとして

そして、目的と使い道から物件の条件を考えていった。

よくある飲食店だと、地元住民や通りがかりの人を主な客層とするため、通りの通行量や土地の雰囲気などを重視する。しかし、屋上の場合はその性質上、通りを歩いてる人がフラッと入ってくるよりは、屋上の存在を知った人がわざわざ出向いてくれることの方が多くなりそうだったから、ある程度どこからもアクセスの良い駅であれば駅からお店までは多少離れていてもいいな…と立地の条件を定めた。

屋上の近くにはEDMの流れる激安八百屋さんがある。
お店の前の通りの様子

また、オープンの初期費用をなるべく抑えるためDIYで改修することに決めていたので、素人では手を出せない水道やガスなどのインフラには手を加えずに使える、というのも一つの大きな条件だった。

出てきた条件に優先順位をざっくりとつけたのが以下だ。

◎絶対に譲れないところ
・とにかく安く
(仮に売り上げがゼロだったとしてもお金を出し合えばなんとかなるくらいの額)
・水道やガスなどのインフラ面がある程度整っていて、DIYで改装すればなんとかなりそうなところ
・都心からのアクセスがそれなりにいい

◎できればこうしたいというところ
・イベントや展示ができるくらいの広さ
・駅から遠すぎない

◎どちらでもいいところ
・大通りの路面店であるかどうか
・周囲の環境(治安の良さや土地の持つイメージ)

条件をざっくりと決めたら、いよいよ物件探し。
最初にどれだけ条件を細かく決めていたとしても、結局は出てきた物件次第。とにかく数を見て比較することが大切になってくる。

屋上の場合、出店場所のイメージが「いわゆる都心エリアからそれなりにアクセスがよいところ」というざっくりしたものしかなかったので、物件探しサイトを活用した。出店場所が明確な場合はその土地の不動産屋を回ってみるのもいいと思う。

以下が実際に使ったサイトの一覧。

HOME’S
アットホーム
SUUMO
DIYP

ほとんどが、普通の家探しの時にも使っているサイトではないだろうか。

一般に、ものを売ったりサービスを提供したりするための物件を事業用物件と呼ぶ。

飲食の事業用物件を専門にした登録制のサイト等も使ってみたけれど、紹介されている物件のほとんどが数百万単位で予算がある人向けのもので、良い物件と巡り会うことはできなかった。

各サイトの紹介をすると、

HOME’S、アットホーム、SUUMOあたりは家探しをしたことのある人なら誰しもが使ったことのあるサイトだと思う。これらのサイトでは、事業用物件もかなりの数扱っている。今契約している物件はアットホームで探し出したものだ。

DIYPは、その名の通りDIY可能な物件を紹介しているサイトだ。
古くてそのままでは使えないけれど改装すればいい感じに使える建物が安く掲載されていたりもする。一軒家を改装して住居兼店舗を作りたい、というような人にも良いかもしれない。

屋上の場合、探すのを諦めていた時期も含めると探し始めてから実際に契約するまで8ヶ月ほどかかった。その間、内見まで至ったのが8件。

以下に内見したときのそれぞれの物件に対する所感メモ記録があるので、興味がある人は見てみてください。

https://docs.google.com/document/d/1jEsU9ixLScGrLbzgtpLbkwAbxkfXZ4VcaghxWGEhIic/edit?usp=sharing

以下は、最終的に契約することになった物件を内見した時のメモの内容だ。

◎西日暮里駅徒歩10分、新三河島駅徒歩4分 80000円  敷礼2/1  保証金なし
・都市ガス
・スナック居抜き
・かなり広い、古いが綺麗に使われている(20人くらいは余裕で座れそう)
・コーヒー&カラオケスナックだったみたい
・仲介手数料なしの物件(紹介している不動産屋自体が持っているため)
・保証会社 賃料一ヶ月分
・造作譲渡料無償
・電力強いエアコンのため、家庭用エアコンを付け替えることはできない(エアコンを替える場合は高いのでリースなども検討?)
・ガス、水道は通っているが、コンロやシンクは古く使えないため新しいものを導入する必要がある
・トイレは洋式で綺麗、そのまま使えそう
・鉄筋造、音もある程度出せそう(上のかいの住人と相談)

全体の所感:広さと立地と家賃のバランスがちょうど良い、造作がかなりスナック然として綺麗に残っているため、そのまま使えて雰囲気のあるお店になりそう、内装費もあまりかからなそう。イベントやライブができるくらいの広さがあり、音もある程度大丈夫で、プロジェクションできそうな壁もある。
とにかくめちゃくちゃいい!!

実際は『めちゃくちゃいい!!』ことだらけではなくたくさんの問題があったが、似たような物件と比較してみても初期費用の安さは際立っていたように思う。

契約したての頃はこんな感じ↓

事業用物件ならではのこと

事業用物件でも住居用物件でも契約までの流れはほとんど同じ。
住居だったら、多少の不都合は自分が我慢すればなんとかなるけれど、事業用物件、こと飲食店を始めるには、『営業許可』を得る必要がある。この許可は人ではなく店舗に対して下りるので、設備に不十分なところがあると営業許可を得ることができない。そうなると、賃料としては安く借りられたのに結局設備を整えるのに何百万円もかかってしまう…なんてこともあり得る。

以下に、事業用物件ならではの見るべきポイントを挙げていく。

・用途地域について
「この辺りは住宅を増やして夜は静かなエリアにしよう」とか、「この辺りにはお店をいっぱい建てて賑やかにしよう」とか「このあたりには工場を作ろう」という風に自治体によって使用用途が定められた土地のことを用途地域と呼ぶ。

居抜き物件であればまず大丈夫だと思うけど、飲食店の営業を禁止している地域に出店することは当然できない。

また、普通の飲食店は許可されているが、深夜(0時以降)お酒を提供するお店は禁止されている地域もある。深夜営業をする予定で飲食店だった物件を居抜きで借りたら深夜の酒類提供が禁止されている地域だった…とならないよう、注意が必要だ。
用途地域について特に気にする必要のない場合でも、出店場所付近の用途地域の地図を見ておくと、大まかな人の流れやその土地の特色みたいなものが見えてきて面白いのでおすすめ。

https://www2.wagmap.jp/tokyo_tokeizu/Portal

屋上のある西日暮里6丁目付近の用途地域

・什器の廃棄
居抜き物件だと、机や椅子が店内造作物として残ったまま、ということもよくある。そのまま使える場合はいいけれど、お店のイメージに合わなかったり、汚れていたりすると処分方法を考える必要が出てくるし、量が多いとそれなりにお金がかかってくる。

屋上はカラオケスナックの居抜き物件だったので、The スナックといった風情の赤くてふわふわの椅子がたくさん置いてあったが、欲しい人に取りに来てもらう形で処分費用をかけずに処分することができた。

3年間使われていなかった家具たちはセルフクリーニングの後、様々な人の手に渡っていった。

・都市ガス・プロパンガス
ガスには都市ガスとプロパンガスの2種類がある。ガス会社による違いもあるが、一般的にプロパンガスの方が月々の料金は高い。強い火力を必要とする中華料理店やラーメン店では熱量の高いプロパンガスを使っているところも多いけれど、特にこだわりのない場合、都市ガスの物件にしておく方がお得かなと思う。(プロパンガスはガスの入った容器を各家庭に配送して供給する分散型エネルギーのため、都市ガスと比較すると災害時の復旧が早いなどのメリットもある。)

・エアコン
意外と見落としがちなのがエアコンだ。
ある程度広さのあるお店だと、一般的な家庭に設置されている100vのエアコンではなく、200vのエアコンが必要になってくる。本体価格が結構高いので新しく設置する場合には注意が必要だ。

・敷金礼金仲介手数料
物件を借りる時に支払う敷金・礼金・仲介手数料。

住居用物件だと家賃1ヶ月分が相場だけど、事業用物件だと2ヶ月以上がほとんど、物件によっては5ヶ月ほど請求されることも珍しくない。内見の際に、全体の初期費用について聞いてみると教えてくれると思う。

・二層式シンク
飲食営業許可を得るために必要な設備の要件は自治体によって少しずつ違っているけれど、二層式シンクは必須だ。居抜き物件であれば心配する必要はないかもしれないが、一からキッチン周りを作ろうというときには、かならず二層式シンクの大きさを確認しスペースを確保して設計しよう。

・ホームセンターが近くにあるか
DIYで何かをしようと思うとお世話になるのがホームセンター。屋上施工中は2日に1回のペースでホームセンターに通っていた気がする。

免許を持っていれば、無料でトラックを借りられるホームセンターもあるけれど、免許がない場合はホームセンターの配送サービスに頼ることになる。ホームセンターによって、サービスの有無や配送地域が変わってくるので、事前に確認しておけると安心。

大変で楽しい、お店を作ること

お店を作るのって、自由で考えることが無限にあってとても楽しいけれどとても面倒くさい。維持していくのは、作ること以上に難しいことだったりする。そのリスクを考えるのなら、いきなり物件を契約するのではなく、レンタルスペースを週一で借りての間借り営業から始める…のも選択肢としてありだと思う。
私たちも、物件を探している間は浅草のレンタルスペースを借りて隔週のお店をやっていたし、その時からの常連さんが西日暮里の店舗の方に遊びにきてくれたりもしている。

それぞれの条件によって、『このやり方が絶対に正解!』というのはない。

でも、やりたいと思ったのなら、とにかくググりまくって、気になる人には直接アポを取って聞きまくって、手を動かし続けてさえいれば絶対に形になる。

今回は物件の契約面を中心にした内容だったが、次回以降、椅子やテーブルの作り方など具体的な施工にも触れていきたいと思う。

渋いギャル twitter:@iroha1221