はじめに
菜種梅雨の晴れ間、静かな午後。桜の蕾。
皆様方におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
三年ぶりに帰ってまいりました。植物を育ててみませんか?という提案の第二弾です。(第一弾の記事はこちら)
私は長年ライフワークとして音楽を制作し、作品のリリースをしたり、休みの日にはライブハウスやギャラリースペース等でライブパフォーマンスを行ったりしています。
そういった自身のライフスタイルに鑑みて、残念ながら最近方々で頻発しているレクリエーションの機会の消失について、もし今後自分の出演する予定のイベントが延期や中止となり、使えるはずだった事や物に時間が使えなくなった際に、代わりに何をあてがえば良いのだろうか?と考え始めたことをきっかけに、この記事を書くにいたる構想が始まりました。
楽しみにしていた休日の予定を変更せざるを得なくなって、モヤモヤしている人の気持ちを少しだけ(少しだけというのが大事だと思います)晴らすようなことができないだろうか?
そんなことを考えているうちに、自分が音楽と同じくらいに好きな植物・園芸について「あなたも育ててみませんか?」という内容の文章を再び書こうと思い至りました。
これをきっかけに、こういう状況下以降、言うなればコロナ時代の終焉以降にも、持続的に心と生活を少しだけ晴れやかにする時間の使い方を新たに見つけることができれば、それは大変に素晴らしいことではないかと思います。
植物を育てることの魅力
私はオオデマリという花木が一番好きで、実際に栽培もしています。
このオオデマリは4月末から5月初めに、紫陽花のような白い雪洞形の花をつけるのですが、毎年桜の花が散ってからしばらくすると、桜と入れ替わるように花芽をつけはじめます。
朝少し早起きして水をあげる時に、昨日まではなかった花芽を見つけた時の喜びは、何ものにも代え難いものです。季節が巡ったことを実感し、また今年もこの花を見れる嬉しさを噛みしめる。そして花を堪能した後、散り始めに来年また咲いてくれることを願う。この一連の流れと抱く感情とが、植物を育てるということの魅力だと私は思っています。
休みの日の朝、起きぬけにカーテンをあけ、大切に育てている植物の方を見ると好きな花が咲いていた。それをぼんやりと眺めるあなた。
買いに行く前に覚えておくと良いこと
まず、植物を育てるための心構えや私自身の失敗から枯らさないためのヒント、マナー等を先に書いておきます。
いきなりルールやマナーの話で気持ちが盛り下がるかもしれませんが、私自身、基本を知らずに買ってしまい、あっという間に枯らしてしまったとても辛い経験があります。大切なことなのでゆっくり目を通してみてください。
内容も難しくなく、とても簡単なルールなので、これらを覚えておくだけで、快適かつ楽しく植物を育てられると思います。ぜひお願いします。
- ちゃんと世話、管理できる数にとどめる
結局はこれです。
植物はどれも魅力的なために、たくさんの種類が欲しくなりますが、手持ちが多くなりすぎるとその分世話や管理が大変になります。植物によって成長期と休眠期が違いますし、水の量や肥料の量、好みの気温や日当たり、かかりやすい病気やつきやすい害虫なんかも違います。慣れない内からたくさん育てるのは大変です。あと当然ですが、育てていると植物は大きくなります。スペースなども意識すると良いでしょう。
そう考えると一番好きなもの、お気に入りを一つメインに置き、あとは小型のものを少しというのが現実的だと思います。数が少なければ注意が行き届くため、不意なアクシデントにも迅速に対応ができ、丁寧に育てることができます。
また亜熱帯の植物など、日本の(多くの読者の方が日本在住と仮定しております)気候条件とあまりにも違う場所で育つ植物の管理は非常に難しいので、どうしても育てたいという場合はインターネットや詳しい方からしっかり情報を収集してください。冬場はほぼ間違いなく室内に取り込むことになりますので、後述する植物用LEDが必須です。
- 枯らさないためのあれこれ – 日光
日当たりのいい場所に置いてください。耐陰性(日光の当たりにくい比較的暗い場所でも育つ)のある観葉植物もありますが、基本的に日光が必要です。
ベランダやベランダ扉の前、窓際など、明るい光が入って来る場所が理想ですが、中々難しい場合は植物用のLED(最近はIKEAでも売られているらしい)などで補助すると良いでしょう。
そして意外と思われるかもしれませんが、直射日光(強い陽射し)は避けてください。強い陽射しを浴び続けると葉が焼けてしまい、そこから枯れてしまいます(葉焼け)。日光浴させてあげようと思いベランダに出して、そこで直射日光に長時間当ててしまい葉焼けを起こしてしまったという悲しい事故をたくさんの方が経験されています。
陽射しが強い部屋の場合は少し窓から離すなどの工夫を。遮光ネットを活用するのも良いと思います。
- 枯らさないためのあれこれ – 水
水不足が原因で枯らしてしまうことよりも、やり過ぎで枯らすことの方が圧倒的に多いです。
以下は前回の記事からの抜粋です。
枯らしてしまうほとんどの原因は水のやり過ぎによる「根腐れ」だと考えられる。本来は土が乾いたら水をあげるものを、水は毎日あげないといけない(逆に土が乾いていれば日に二度水をあげる必要もある)と思い込み、まだ土が湿っているのに水をあげ続けると、常に湿っている状態の根は腐ってしまう。そして元気がなくなったのを見て「水をあげなきゃ」と思ってさらに水をあげてしまう…。
毎日チェックして乾いていればあげる、まだ湿っていればあげないという判断が大切。表面が乾いていても中の土は十分に湿っていることが多いので、指で表面の土をさらって中の方までチェックする。
根は酸素を必要とします。常に土が湿っている状態では根の周りの酸素が欠乏して(これを嫌気状態といいます)やがて根が死んでしまいます。
根がなくなれば水を吸えません、さらに死んだ根から雑菌が入ることで株そのものがやられてしまいます。
「水は土が乾いてからたっぷり」とが基本です。
もう一点注意があります。水をあげる時は植物には直接水をかけずに、極力土に直接水をかけるようにしてください。葉が濡れた状態でそのまま日光に当てると、葉についた水滴がレンズの代わりになって葉焼けの原因となります。
植物に水をかけてはいけないと述べたばかりですが、葉っぱに霧吹きなどで水を吹きかける「葉水」も植物の健やかな成長のためには大切です。
適度に葉に水を与えることで葉も元気になりますし、表面についた汚れや虫を洗い流すことで病気や害虫の予防になります。
もちろん、葉を濡らした後は風通しの良い直射日光があたらない場所で管理してください。
- 枯らさないためのあれこれ – 風
風の流れは湿気による蒸れの防止やカビの発生、病気の予防のために非常に大切です。
土の乾燥が早くなることで根腐れの防止、室内の場合はカビ臭くなるのを抑制出来るなどの効果があります。風を侮ってはいけません。
換気扇やサーキュレーターを回すなど、室内に空気の流れを作ることをおすすめします。
風に揺られて刺激を受けるとエチレンが分泌されて成長が促進されるとか、気孔の開閉が活発になって蒸散が行われ光合成が促進されるといったこともあるようです。
- 枯らさないためのあれこれ – 剪定
丁寧に育てた甲斐あってきれいな花が咲いた後、しばらくして花が見納めの頃合いになったら、思い切って剪定してください。
花を咲かせることは植物にとって非常に体力がいる行為です。咲いた後もそのままにしていると、種や果実を作るために栄養をどんどん送り込んでしまうので、株が弱る原因となります。もったいない気がしますが思い切って早めの剪定を。
剪定するはさみは何でも構いませんが、切る前に熱湯で消毒しましょう。雑菌が切り口から入ってしまうと病気の原因となります。
花を剪定し終えたら、今度は体力を消耗している植物を労うために肥料を与えましょう。これを「お礼肥(おれいごえ)」と言います。
長年育てていると当然株は大きくなります。また毎年花をつけるために、種類によっては決まった時期に剪定が必要となります。剪定することで毎年花芽がつき、また大きく育ちすぎた枝を切り戻すことで管理しやすい大きさを保つことができます。
- マナーについて
多くの方がマンション、アパートにお住まいだと思います。私はベランダでの栽培をおすすめしていますが、厳密にはベランダは共用部分です。
災害時の避難経路にもなりますので、蹴破り戸の前や避難梯子の蓋の上に鉢を置かないなど、避難時の動線の確保を厳守する必要があります。また、台風や建物の改修工事等、いざという時に容易に室内に取り込めるようにしておくためにも、前述のように鉢の数を少なく管理することをおすすめします。
また咲き終わった後の花がらや落ち葉、剪定した枝などはすぐに始末しましょう。そのまま放置すると強風で飛ばされてあちこちのベランダに飛んでいってしまい迷惑をかけてしまいます。水やりも同様、豪快にかけようとして階下に水をこぼさないように注意が必要です。
土に関しても、詰まりの原因になりますので排水口に流さず、ほうきとちりとりで集めてください。ちなみに私は集塵機で吸い取っています。パワープレイ。
はじめは大変だと思いますがすぐに慣れます。旺盛に育つ植物を見ていると多少の手間も楽しくなります。頑張ってトライしましょう。
そしてうまく育てるのに大切なことは、毎日観察することです。
日々の微細な変化を愛でつつじっくり眺めることで、病気や害虫等のトラブルも早期発見できます。
そのためにも何度も繰り返しますが、鉢の数をなるべく少なくすることが大事だと思います。欲張りすぎてはいけない。
非常に長くなりましたが、ここまで読んでくださったというとは皆様の園芸に対してのモチベーションが非常に高まっていらっしゃる証拠だと確信しております。ではそろそろ買いに行きましょう。
買いに行く
可能であれば、家の近くにあるお店で買うことをおすすめします。
一日の日照時間、気温の変化等、環境が自宅と近いと、植物が新しい環境に適応しやすいからです。私は家の近所のホームセンターをおすすめしています。土や肥料などもついでに買えますし、昨今のブームも相まって非常に豊富な種類の植物が売られています。
ただ、これはあくまでおすすめですので、実際はそこまで気にしなくて大丈夫です。行きやすい、行きたい場所で買いましょう。園芸店で多種多様な植物に圧倒されて何時間も過ごすのもよし。スーパーで買い物をしたついでに、ホームセンターでも、仕事帰りにふらっと覗いた花屋さんでもよし。
花屋さんであればお店の方が育て方を丁寧に教えてくださると思います。
もし店頭で心掴まれる素敵な植物と目があってしまったのなら、思い切って栽培に挑戦してみましょう。
いるもの
- 植木鉢
鉢とセットで売られているものは、しばらくそのままでも育てられます。成長の様子を見ながら2〜3年に一度、一回り大きな鉢に植え替えます。
ビニールポットに入って売られていた場合は、なるべく早く鉢に移し替えてあげましょう。
鉢の大きさは号という単位で表されます。1号が直径約3センチです。製品によって微妙にサイズが変わりますが1号〜12号くらいまでのサイズの鉢だとお店で手に入れやすいです。買った時の苗のビニールポットよりも一回り大きい鉢に植え替えます。
植物の大きさに比べて鉢があまりに大きいと、土がずっと湿った状態になりやすく、そうなると根腐れの原因になりますので、バランスが取れている大きさのものを選ぶのが良いでしょう。
ビニールポットは直径9cm(3号)のものが多いと思います。私はそれを4号(12cm)か5号(15cm)に移し替えることが多いです。あとは鉢と樹高のバランスを見て決めます。
個人的な経験では鉢のサイズと植物の大きさ、見た目のバランスが調和が取れていて美しいと思える組み合わせだと、何故だかめちゃくちゃ元気に育ちます。
- 園芸用土
初めは何にでも使える「花と野菜の培養土」的な、既にブレンドしてある土で十分です。慣れてくると赤玉土や鹿沼土等の基本用土に腐葉土やバークを追加する等して自分でブレンドするのも楽しいです。アジサイなんかは土のpHによって花の色が変わります。そういう楽しみ方もいいですね。
土は持ち帰るのが大変だと思うので、その場合は通販を利用するのも良いし、100均では小袋で販売されています。
また再生材という使った後の土に混ぜるとまた利用できるようになる便利なものもあります。
- 鉢底石、鉢底ネット
水はけや通気性を良くするために、培養土を入れる前に鉢の底に敷く軽い石を「鉢底石」といいます。また植木鉢によっては底に水はけ用の大きめの穴があいていますので、その穴から虫が侵入したり、土がこぼれるのを防ぐために、穴の大きな鉢を使いたい場合は鉢底にネットを敷きましょう。
鉢底ネット、鉢底石、培養土の順番で入れていきます。また盆栽では植物をしっかり固定するために予め針金を底に通して植物を固定する手法が取られますが、私の昭和の面影残る牧歌的園芸ではこのへんはなくても全く問題ありません。
- ジョウロ、剪定ばさみ、霧吹きスプレー
水をあげられれば、枝を切ることができればなんでもいいです。でも気に入ったデザインのジョウロやハサミなどを使えばめちゃくちゃ気持ちよくなります。
私は何かを始める時はどんどん形から入っていくべきだと思っているので、思い切って本格的な銅製の如雨露(じょうろ)や剪定鋏などを買ってもいいですし、海外のデザイン性の高いガーデニング用品を手に入れるのも最高ですね。霧吹きに関しては葉っぱに水を与えたり薬品を散布するのに必要ですので、数個用意しておくと良いでしょう。百均のものでも充分ですが、こちらも重厚で屈強そうな工業用スプレーなどを手に入れるとやる気が出ます。(私が単純にそうでした)
- その他
肥料や病気になった時の薬品、害虫対策の薬品などもいずれは必要になるかと思います。また植え替え時にスコップやピンセットなど、ちょっとした便利な道具があると作業が楽になります。適宜購入していくと良いでしょう。
おわりに
以上で「植物を育ててみませんか」という私の提案は終わりです。
今回の提案は、多少なりとも誰かの気持ちが楽になる何かを投げかけることができたらいいなという、個人の欲求でもあり、単純に長年園芸をやってきたものとして「めちゃくちゃおもしろいものですよ!」と人に勧める、趣味のプレゼンでもあります。
英会話を本格的に勉強するとか、料理を真剣に始めてみるとか、ギターを始めてみるとかできることは色々あります。
私の場合、今の状況下で誰かを少し導けるとしたらなんだろうかということを考えた時に、可能なことが園芸でした。
もしこの記事を読んで、難しそうだからと避けていたけど育ててみようと思ってもらえたのなら、本当に嬉しく思います。そして数年後、あの時始めてよかったと思ってもらえたのなら、最高に幸せです。
先行きが不透明な状態ですが、前向きになんかおもろいこと見つけてヘラヘラやっていきましょう。時間はかかるかもしれませんがいつか必ず終息する時がきます。
後々この時代を振り返った時に、心と生活を少しだけ晴れやかにする方法に出会う契機だったと感じられるのなら、それは大変に素晴らしいことだと思います。
花も厳しい季節を耐え抜いて、やがて頃合いをみて盛大に開くものです。