街でお酒を飲もう 〜戦略的路上飲酒のために〜
0:前書き
俺は東京に住んでいる。これからもきっと住み続けるだろう。
2017年現在の東京、いろんな施設ができててやばい。昨日まであったものがいきなり無くなって、新しい建物ができてる。商業施設とか、オフィスビルとか。あんまり自分に関係なさそうだなって思う。でもけっこう、新しい「東京」の、そういう東京っぽいとこの近くに行くことは多い。その「東京」に行く回数では消費できないくらい、「東京」には高いものがいっぱい売ってたり、高いご飯屋さんがあったりする。
予定のない休みの日の昼過ぎに起きて、ベランダでタバコ吸いながらインスタグラムとかツイッターとか見てると、みんな色んなとこに行ってる。寝ぐせ直すのめんどくせえなってキャップ被って、サンダル引っ掛けて近くのセブンにアイスコーヒー買いに行って、レジけっこう並んでるし空くまで立ち読みしようかなって思うと、雑誌は東京特集ばっかだ。いま行くべきお店、買うべきもの、身につけると生活が楽しくなるとされているもの。
これスタンプラリーじゃんって思う。夏休みの朝にラジオ体操に行くとスタンプを押してもらえたあの感じ。あれは夏休みの一部期間だけだったから、楽しかったのだ。この街にいる限り、スタンプを押されるべき項目がずっと増えていく感覚を一瞬覚え、虚しくなる。けど、きっと街ってそういうことじゃない。
昨日まであった公園がいきなり真っ白な大きいフェンスで覆われたりしても、俺たちが東京にいるということは変わらない。
街は、俺たちの庭でもなければ部屋でもない。勝手にしていい場所じゃないけど、かといって決められたことをする場所でも、もちろんない。
だったら、もっと、この街を自分のものにするしかないじゃないか。
1:街を自分のものにするための予備知識
1-1:日常的な実践〜ミシェル・ド・セルトーを引いて〜
昔のフランス人の思想家で、ミシェル・ド・セルトーという人がいる。彼は、「歩く」ということを、「システムの衰退の後にも生き続けている実践」であり、「監視の網の目のなかにそっとしのびこ」み、「日常的な調整をはかり、密かな創造性を創りだす程度には安定した戦術にしたがいながら、たがいに結ばれあっている」ものだと言っている。(Certeau,Michel de. 1980 ART DE FAIRE ,Union Geneale d’Editions(=1987,山田登世子訳『日常的実践のポイエティーク』国文社))
この本は難しくて、何回読んでもよくわからない。たぶんだけど、「システム」っていうのは、「いろんな施設できまくっててやべえじゃん、ギンザシックスとか用事ないわ」みたいな気持ちを、僕たちにもたらすもののことだと思う。
そして、「システム」がはびこる街を自分が「歩く」ということを、ひとつの「実践」として捉え直した時に、そこに何かしらの創造性をもたらすことは可能だし、都市っていうのはそういう「実践」が網目のように折り重なって形づくられていくもんなんじゃないの、ってことなんじゃないかって解釈してる。
セルトーの言う「歩く」を、もっと戦略的にやってる人は、実はけっこういる。真似はしづらいけど、とりあえず例を二つだけ。
1-2:スケートボーディング
スケボー。板の下に車輪がついてる乗り物で移動したり跳ねたりする。スケボーする人の為の公園もあったりするけど、僕たちが見るのは街を走ったりしてるスケーターだと思う。彼らは、街にある手すりとか、階段とか、花壇とかを、僕たちとはぜんぜん違う目で見てる。それは、ジャンプしてうまい具合にひっかけて板の先で滑る場所だったり、飛び越える難関だったりといったかたちで、彼らの前に現れている。
「Tokyo Skate」ってYouTubeに入れて出てきた動画とか見ると、自分が知ってる街なのに、彼らの動きが自分たちとはまったく違うことに驚く。
1-3:グラフィティ
落書き。グラフィティライターは、自分でつけた自分の名前を街に書いてる。(街で見かける殆どのグラフィティは「タグ」、そしてそれをかくことは「ボム」って呼ばれてる。彼らは街に自分の名前を爆撃している。)ツイッターでハンドルネームが独り歩きしてる感じかもしれない。それを街にかく。たくさんかいて「目立つ」のもいいし、大きくてかっこいいものをかいて「目立つ」のもいい。様式もなんでもいい、自分がかっこいいと思ったスタイルで目立てればいい。
かくのは自分の身体だし、バレたら現行犯で捕まる。でも、かきたいから目立つ場所にかいたり、数をかせぐ。素早く身体を動かして、リスクを回避しながら。だから、彼らの街を歩くときの目も、僕たちとはぜんぜん違う。爆撃できる場所、機会、時間を伺いながら、戦略的に、街の隙間に署名を残している。
2:街を自分のものにするために~戦略的路上飲酒~
とは言っても、スケボーもグラフィティも危険だし、怖い(そこがかっこいいんだけど)。見習うべきところだけ見習って、ここではひとつ、「街でお酒を飲む」ということをひとつの実践として捉えてみる。セルトーにならって、これを「戦略的路上飲酒」とでも呼んでおこう。
2-1:やりかた
街でお酒を飲む。歩きながらでも、止まってでも、なんでもいい。とにかく、都市空間でお酒を飲むのだ。幸いにもアメリカのいくつかの都市とは異なり、いまの日本は屋外でお酒を飲むことは違法ではないのだから、どんどん街でお酒を飲もう。安い居酒屋でレンジでチンされたつまみを食べながら薄いお酒を飲むより、遥かに楽しいし、美味しい。
2-2:飲む場所を見つける
街でお酒を飲む場所をみつけるには、スケートボーダーやグラフィティライターと同じような、街を見る「目」が必要になってくる。騒がしすぎても落ち着かないし、住宅街では苦情が来てしまう。地べたに座るのも悪くはないけど、お尻が冷えるのは万病の元だ。
だから、街の「隙間」のような場所を見つけるのが良い。
その隙間に必要な条件はだいたいこんなところだ。
① フェンス/車止め/ガードレール/花壇がある……良い椅子になる
② 商業施設に挟まれた公園……昼は人が来ないし夜は静かなので、誰にも迷惑がかからない
③ 階段がある……数人でいる場合、車座になって街のスペースを圧迫することがなく、スムーズに会話ができる。かつ、荷物を置いておいてもとりやすい。
④ 段差……とにかく段差は便利だ。座った時に膝が疲れない。ものも置ける。
2-3:のみかた
◯撹拌してみる
缶ビールとか、缶チューハイとか、買ったはいいけど、途中で飽きる時がある。そんなときはコンビニでビニールのコップを買おう。
カップの焼酎(風味の強い黒霧島などではなく、宝焼酎などがいい)を買って、お茶などの任意のソフトドリンクと混ぜる。ローコストでウーロンハイ、緑茶ハイをクリエイトできる。
ウイスキー小瓶を買って、炭酸飲料と混ぜてもいい。
あと、ビニールのコップにビールを注ぐと「ついでに飲んでる」感が軽減されるのも良い。
度数も自分で調節できるから、残された終電までの時間と自分のアルコール摂取限界と無闇やたらに戦わなくても済む。氷がほしいな、と思ったらコンビニでアイスコーヒーの入れ物を買おう。コップも氷も手に入る。
◯つまみにこだわる
おつまみ常連とされている、スナック菓子の類はあまりおすすめしない。路上に広げた際にスペースをとり、かつ参加者全員からのアクセスが悪いからだ。コンビニで調達できるものがいい。つまみ売り場もいいけど、惣菜コーナーも覗いてみるとお酒に合いそうなものがたくさんある。カニカマ、ザーサイ、ポテトサラダ、ゆで卵。キャベツの千切りと小さいマヨネーズを買ってシェイクして、簡易的なサラダを作るのも楽しい。
2-4:あると便利なもの
① コーチジャケット
スケーターの人とか、おじいちゃんとかが着てるナイロン製のジャケット。涼しくなったら羽織れるし、お尻との接地面に敷けば冷たくない。あと、雑に扱ってもいい感じがする、なんとなく。薄着の女の子の肩にかけてあげるのも良いかもしれない。女の子が着ててもかわいい。コーチジャケットを着てる女の子のことは好きです。
② クージー
ビンとか缶を簡易的に入れておくもの。水滴が手に付かないし、なにより冷たさが維持される。クージーと、あとはバンダナがあれば保冷や水滴の問題はたいてい解決する。夏は常にカバンに忍ばせておくと良い。
僕が使っているのは幡ヶ谷と代々木公園にある自転車屋さん、BLUE LUGの「OSUSHI BOYS KOOSIE」だ(現在品切れと出ているが実店舗には置いてある。他にも色々なお店がノベルティとして出したりしているのでお気に入りを見つけてくれ)
「OSUSHI BOYS KOOSIE」
③ 携帯灰皿
お酒を飲みながらタバコを吸う人もいると思う。ポイ捨ては言語道断。戦略的に路上で飲酒をする際にあってはならないのは、跡を濁して立つことだ。僕たちの街は、僕たちがきれいに使おう。もちろん、禁煙の標識があるところ、住宅街では吸わないこと。
④ bluetoothスピーカー
音楽を聴きたくなったとき、スマートフォンのスピーカーだと少しさみしい。そんなときはbluetoothスピーカーの出番。今は小型で安くて音がいいのがたくさん出ている。もちろん迷惑にならない所で。迷惑にならない音量で。あと、音楽は主役ではない。それぞれのおすすめ音楽を流すDJタイムが始まったことによってお釈迦になった戦略的路上飲酒を僕はいくつも経験してきた。自戒も含めて。
3:さいごに
もっとも大事にすべきなのは、節度だ。酒を飲めば楽しくなる。踊るも良し、歌うも良し。だけど僕らが街を自分のものにしようとしているとき、それはまた、誰かが自分のものにしようとしている街でもあるということを忘れてはいけない。ゴミはゴミ箱に。なるべく、買い物をしたコンビニのゴミ箱に。とにかく楽しくやるのが一番だ。楽しく、街をハックするのが一番。
街に出て、お店に入って、良いものを買って、良いものを食べるのは楽しいことだ。この記事は、お金を使うことを悪だと言っているわけでもなければ、「お金を使わずにお酒を飲む」ことを奨励しているわけでもない。
ただ、僕たちには、街を生きる権利がある。その権利を持った僕たちの実践によって、街もきっと、もっともっと生きられていく。そういう確信から、この記事を書いた。
「システム」は今後どんどん増え続けていくと思う。その流れは止められないし、否定しようとするととても疲れてしまう。だから、僕たちはもっと、この街を自分のものにするしかないじゃないか。それはきっと、とても楽しいことだから。