パーリー建築 宮原翔太郎インタビュー 「楽しいからやる 人が集まる」

はじめに

 「行ってみてから考える」という企画を作って、鳥取に行った。その名の通り、普通の取材旅行みたいに取材対象を最初に決めたり企画を立てたりするのをやらずに、最初から何も決めないで、行ってみてから何ができるか考えてみようという企画だったのだけど、実際に行ってみるとやっぱりいろいろな人がいて、いろいろな話を聞くことができて、最初に思っていたよりもいろいろなものが生まれそうな気がした。(そのうちのいくつかは今まさに記事や企画として形にするために作業しているところなので、形になるまでしばらくお待ちいただきたい)

 そもそも、なぜ鳥取に行ったのかといえば、鳥取に宮原翔太郎という友人がいたからだ。
 彼は、3年前にパーリー建築(通称「パー築」)という活動をはじめて、日本各地でパーティーをしながら、施主やその土地の人々と一緒にセルフビルドで古民家、空き家を改修している。パー築のメンバーは流動的で、現場によって変わっていくし、一つの場所にいる期間も定まっていない。

 例えば私たちが最初にパー築に出会ったとき、渋谷のはずれにある、ゴミ屋敷みたいになっていたボロボロの空き家を数人がかりでゲストハウス(素泊まりの宿泊施設)にリノベーションしていた。彼らは、その空き家の2階に寝泊まりしながら、丸ノコが出した木屑にまみれながら1階をリノベーションして、余ったスペースを展示スペースとして貸し出して、夜になると集まってきた人でパーティーを開いて、といった風に、リノベーションの完成前から、色々な場所から集まってきた人々が交流する場を作り出していた。

 パーリー建築の活動を見ていて、少し不思議に感じているところがあった。
 彼らの活動は、なぜだかとても軽やかな感じがする。「その土地の魅力を発信する」だとか「人助けがしたい」という風に、「何か社会問題に立ち向かって良いことをするぞ」という気負いもなければ、個人的な夢を叶えるために無理をしているわけでもない。ものすごく自然体だ。たくさんの事例を知っているわけではないけど、東京から地方に移住して何か活動している人たちのなかでは、そういう人って珍しい気がする。それでもなぜだか、彼らの周りにはいつの間にか色々な人が集まっていて、面白いことが起こっているのだ。

 そんな彼らが、鳥取に住民票まで移して住むことに決めたという話を聞いた。
 尾道から始まり、渋谷、新潟、京都、浅草、愛知など、日本中を飛び回ってきた「旅する建築集団」。そんなイメージで彼らを捉えていた私たちにとって、その選択は意外だった。彼らが住むところとして選んだ土地のことが気になるし、その周りの人のことも気になる。今回、鳥取に行ってみてから考えたことや気づいたことってたくさんあるのだけど、まずは夜の温泉街を歩きながら宮原翔太郎に聞いた話を。


– 今までずっと移動しながら活動してたじゃない?それなのに、なんで鳥取で住むってことに決めたの?

 もともと移動することそれ自体に積極的なわけじゃないのね。この活動を始めた時も、銀座とかにオフィスを構えて、ちょっと地方に行って設計をします、みたいなのは違うなと思っていたから。建築というのは、その土地のことをよく知っている人がするべきだっていう前提があったの。でもありがたいことに、知り合いづてに声をかけてもらったりしながら、気づいたら色々なところに行って活動するようになってた。  鳥取に決めたのは、もう他のところはプレイヤーがいるなと思ったから。今まで行った場所でいうなら、尾道も十日町も田舎なんだけど、すでに若いプレイヤーが結構いる。だから暮らしてるとそういう人と話せるし、楽しいんだけど、僕たちがいる意味はないなと思って。その点、ここには本当に何もない笑  浜村(パーリー建築が拠点としている喫茶ミラクルは鳥取県気高町浜村にある)も、駅出たところに浜村温泉っておっきいゲートみたいなの作ってるのに、日帰りで入れるような観光客に開かれた温泉がないとかやばいじゃん。(浜村温泉は過去に温泉街として栄えたが、現在は旅館と地域住民専用の公衆浴場のみで、日帰りで入ることのできる温泉はない。)

浜村駅を出てすぐのところ。「歓迎 浜村温泉」の文字。

 温泉街っていってるけど、長い歴史があるわけじゃない。でも実際ちゃんと温泉は湧いてるわけだし、温泉のあるところに住みたいな~っていう希望ももともとあって。お湯が沸いてるってすごい魅力よね。
 でも決め手になったのは、中田さんに出会ったことかな。あんなに色々なことに寛容で、気遣いもできて、ギャグセンスも高いオヤジって普通いないじゃん?(中田さんは、翔太郎くんととあるイベントで出会った浜村の建築屋さん)

– 「喫茶ミラクル」を作ることになったのは?

 鳥取でリノベーションスクールっていう、遊休不動産を使って事業を生み出すことを目指すイベントがあるんだけど、そこで採択された案を実際に実行する人がいなくて。それなら「僕らがやります!」ってことで大家さんに提案して喫茶ミラクルを作ることになった。


 喫茶ミラクルとは、もともと理容室とスナックだった建物を、パー築がリノベーションし、運営しているカフェスペース。二階部分は住居スペースとなっており、現在翔太郎くん含め三人のパーリー建築鳥取部隊メンバーが暮らしている。私たちも、鳥取滞在中はそこに宿泊させてもらっていた。すでにカフェ部分のリノベーションは完了していて、週に数回ランチ営業をしたり、期間限定でお店をやりたい人に貸したりしながら、自由にやっているとのこと。

喫茶ミラクルの外観
喫茶ミラクルのカウンターの様子。ちょっぴりハロウィン仕様。

– パーリー建築って名乗ってるけど、固定のメンバーっていないじゃない?いつもメンバーみんなで一緒のことをするぞ!っていうわけでもないし。

 パーリー建築って団体名じゃなくて、手法名とか活動名とかだと思ってて。だから自己紹介する時もパーリー建築の宮原です、じゃなくて、パーリー建築という活動をしていますって言うようにしてるの。仕事も各々がやりたいようにやるのがいいなと思ってて。かずきは、農地買ったりとか、げんちゃんは、もともと美術バックグラウンドなのとかもあってそういうことやったりもしてるし。

皮の処理をしているパーリー建築 農耕部隊のかずきくん

 鳥取駅前で施行中の洋食屋さんになる予定のところが今の現場。今までは、施主さんに住むところを提供してもらって、周りの人を巻き込みながら家を作っていくていうのがほとんどだったんだけど、今回は見積もりをちゃんと提示してる。初めてのちゃんとしたクライアントワークみたいな感じかもしれない。
 今までのところは、自分たちがどうやったら住んでて楽しいかっていうのだけ考えて作ってたんだけど、make(お店の名前)に関しては絶対ゆうすけさんのために流行る店を作るぞ!っていう気合いでやってるからね、それもまた楽しい。


 今の現場の依頼主であるゆうすけさんは、翔太郎くんが少しの間バイトした飲食店でシェフをやっていたという。いつか自分のお店を持とうとは思っていたけど、すぐに!みたいなわけでもなかった。けれど、翔太郎くんと出会ったこととちょうどいい物件が見つかったことなどいくつかの条件が重なって独立を決めたとか。毎日現場に訪れて、作業を一緒に行なっている。お店は11月にオープン予定。

現場で作業中の翔太郎くん
makeのスケッチ
依頼主のゆうすけさん

– この数年リノベーションとか、住み開くみたいなことって流行りみたいになってるなと感じてるんだけど、誰か参考にした人とかいるの?

 うーん。無意識のところで影響は色々なものから受けていると思うんだけどね。
 尾道で活動してた時に知り合ったヒロさんって人がいて。その人が「土地は誰のものでもないし、誰かが独占できるものじゃない」って言って、古民家みたいなところを改修しながらフリーゲストハウスにして暮らしていて。その影響は結構あるかも。

 あと最近ちょっといいなと思っているのはリビルディングセンターとか。ポートランド発祥の古材とかのリサイクルショップで。僕たちも解体現場とか数こなしてきたから、色々目利きができるようになってきてるわけよ。価値があるものかどうかっていうのが結構わかる。だから、そういうのを生かしてなんかやれたら面白いな~と思ったりしてる。

喫茶ミラクルの近くにある足湯につかりながら話した

– どこにいく時も変わらず持っているものとかってある?

 建築の道具と楽器とコーヒーセットだけはどこに行く時も持ってる。道具の力はでかい、できることが全然違う。あと、嗜好品はどんな貧民であろうとも必要だからね、一番大切かもしれないね笑

– パー築の作るものって、すごくいい材を使うとかデザインがめちゃくちゃに洗練されているとかってわけじゃないんだけど、ただ使えればいいみたいなものって絶対作らないじゃん?ちょっとおしゃれ、とかココ良いでしょ!って思ったポイントがわかる感じがする。

 それ、こないだ汽水空港(鳥取松崎にある本屋)の森さんが言ってて。衣食住っていう言葉があるでしょ。その中で、衣って何だろうって考えたときに、あれって別に暑さ寒さを防ぐ機能としての洋服じゃなくて、装飾とかおしゃれを楽しむみたいなことなんじゃないかって。
 アフリカとかの原住民族とかで、裸に色々塗りたくって髪の毛ぐるぐるバーン!みたいなのとかもさ。衣食住の衣は「おしゃれをする」っていう気持ちのところに本質があるんだなって。それでいて、『衣』のところが、生きるって意味では一番大切だな、って思ってる。


 私たちが、少し不思議に感じていた彼らの軽やかな感じって、彼らがいつも、何においても「楽しさ」を軸に活動しているからこそ生まれるものなんだな、と思う。
 彼らは、「東京でかっこいいと思われるような地方の魅力を発信したい」とか、「若者の少ない地方をなんとかして活性化したい!」みたいな、いかにもな目的を最初に用意しない。社会的によしとされるような大きな目標を掲げないで、自分たちの楽しさを何よりも大切にしている。

 結局、人は楽しいことが好きだ。だから、楽しいことを楽しそうにやっている人の周りには人が集まって、また新しく楽しいことが起こる。そうやって、彼らの「楽しさ」がまわりの人にどんどん伝播していくことで、自然な形でその場所にフィットする関係性が生まれてきているんじゃないか、ということを思った。その関係性は、都市に消費されたり、その土地だけの話に終わってしまわない、軽やかだけど確かな強さを持っている。

 今回話を聞いていて印象的だったのが、衣食住の「衣」についての話。「衣」は生活を「ちょっとおしゃれにする心意気」のようなものだ。ちょっとおしゃれといっても、都市と地方では異なる基準がある。だから、デザイナーが関わって、地方のものを都市の基準でおしゃれになるようパッケージングしたり、見せ方を工夫したりすることがあるのだと思うし、そうやって、地方のものが都市に発信されている素敵な事例ってたくさんある。
 けれど、それ以外の選択肢があってもいいんじゃないかなと思っている。
 パー築がつくるものや空間について考えてみると、ただ使えればいいとか、必要な機能性さえあればいい、というような基準のものは一つもない。どれもちょっぴりおしゃれだ。かといって、それらは都市的な意味で洗練されていたり、どこか別の遠い場所で消費されることを想定して形が整えられているわけではない。そこにある「ちょっとおしゃれ」の感覚って、彼らがその場所で、その場所の人たちとの関わりの中で見出してきたものだ。

 自分と、周りの抱きしめられるくらいの人たちを大切にしながら、生活の中で自分なりの「衣」を編んでいくこと。都市に住んでいようと地方に住んでいようと変わらない「死なない」につながるかけらを発見したように思う。

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